メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
その瞳に衝き動かされて心を飛び出し言葉になって口から出ようとする『好き。』という気持ちのしっぽを掴んで無理矢理抑えつける。

「・・・応援するよ。叶えてほしいの、暖人の夢。私も初詣で全力でお祈りするね。」

「いや、自分のこと祈れよ。4月からの仕事のこととかさ。」

「あ、忘れてた。」

「・・・まあ、お前のことは俺が全力で祈ろうと思ってるからいいけど。その為に初詣来たし。」

「え?」

何やらぶつぶつ言っている暖人に問いかけてみるが『何でもねぇ。』と目を逸らされてしまった。

それからしばらくの間私達は無言でただ座っていた。私の意識の全ては暖人に向かっていたし、暖人からもこちらに意識が飛んできているのを感じていたけれど彼が口を開くことはなかった。

───これでもう、暖人と会うことはないんだろうな。

『時間よ、止まれ。』大学の図書館の屋上で夕日を見ながら願ったのと同じことをあの時より強く念じてみる。

流れ続ける時間は止められないけれど、今日ここで彼と別れたら、電車で暖人と出逢った時に気づかぬうちに動き始めていた心の中の時計を止めよう。

心に咲く恋の花は思い出の中で咲かせておこうと思っていたけれど、やはりそれでは駄目だ。摘んで押し花にして(しおり)にして、心の中の本棚の隅に置かれた本に挟んでおこう。封印みたいなものだ。

紙コップの中の甘酒は3分の2ほど残っていたけれどすっかり冷めてしまっていた。
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