メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
近づくと香る、砂糖菓子のような甘い香り・・・なんだか、前より豊かに香る気がする。

───香水はつけていないと言っていたし、シャンプーや柔軟剤の香りでもないみたいなのに・・・本当に不思議なやつだ。ケーキの上に乗っている砂糖で出来た人形か何かなのか?

行儀よく並んだまつ毛の下にある、毛穴が見当たらないツルンとした頬に思わず手が伸びる。まるで陶器のようにすべすべで滑らだが、それだけではなくて温かくて柔らかくもある。いつまででも触っていられそうだ。

笑うとえくぼが出来る辺りを撫でていると指先が唇に触れた。つやつやしたアプリコットピンクの唇は小さくて丸っこく、まるでジェリービーンズのようだ。

その唇から微かに漏れる寝息が、『早く食べて。』と言わんばかりに俺を誘う。この吐息に媚薬(びやく)でも含まれているんじゃないだろうか。

食べたら恐ろしいことが起こるかもしれない。童話の中であの兄妹がお菓子の家を食べてしまった時みたいに。

それでも俺の唇はその誘惑に(あらが)うことなく自然とその寝息が当たる位置まで近づいて、そのまま彼女の唇に触れた。

想像していたよりずっと柔らかい。ふんわりと甘い味がしたような気がした。俺はその味と感触と背徳感に酔いしれた。
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