メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
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森の散策にブッシュクラフト、釣りにゲームにバーベキュー、キャンプファイヤーそして温泉と盛りだくさんの時間を過ごし夜になった。初めて会った人達も皆いい人ばかりで楽しかったけれど、なんだかとても疲れていた。

それなのによく眠れなくて店長が貸してくれた一人用の可愛らしいテントから出て椅子に座り夜空を眺めてみる。目の前に見えるのは美しい星空のはずなのに、最後に会った暖人の姿が私の脳内を占領している。

一ヶ月前、バレンタインの日。雪の為に電車が止まってしまっていて、運転再開時刻は未定だった。

バイトが終わった後、店長が車で家まで送ってくれると言ってくれたけれど、『父に迎えに来てもらうので。』とお断りした。お父さんにメッセージを送ろうとアプリを開くと、手から携帯が消えた。

「!?店長!?」

店長は何やら私の携帯を操作してから画面を見つめ、満足そうに微笑んだ。

「『店長さんによくお礼言っておきなさい。』だって。じゃ、行こっか。」

携帯が消えた時の逆再生みたいに私の手にスッと戻ってきた。お父さんとのトーク画面には『電車止まってるけど、店長が車で送ってくれるって言うから送ってもらうことになったよ。』と私からメッセージが送られていて、『そうか。お父さん今日は21時から海外とのweb会議で帰り何時になるかわからないから助かるな。店長さんによくお礼を言っておきなさい。帰ったらお母さんの様子を見てやってくれ。』と返信が来ていた。お母さんはその日体調不良で家で休んでいた。

「・・・あの、店長、ありがたいけど大丈夫です。タクシーで・・・。」

「とてもじゃないけど捕まらないと思うよ。杏花ちゃん明日朝からシフト入ってるでしょ。従業員にちゃんと体休めて元気に働いてもらうのも店長の勤めなんだよ。」

「それは、さすがです。でも、本当に・・・。」

大丈夫です、という私の言葉は店長の悲しげな声に遮られた。

「杏花ちゃんは俺と二人になるのが嫌なのかな?」
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