メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
「・・・えっと・・・。」

遠慮する気持ちと共に、食事に行った後の車の中やハロウィンやクリスマスのスタッフルームで店長との間に起こったことを思い出す。

「そんなに警戒しないで大丈夫だよ。連れ去ったりしないでちゃんと家に送り届けるから。お父さんにもそう伝えたでしょ?助手席嫌なら後部座席に座ってもらっていいし。俺、雪国出身だから雪の日の運転は慣れてるんだ。さ、行こう。」

こうなってしまったら断るわけにもいかず、ご厚意に甘えることにした。店の裏の従業員通用口を出て、店長の後についてそろりそろりと歩く。雪はやんでいたものの、夜になって凍っていた。

「わ・・・。」

予報通り雪にならなくても雨が降るだろうとレインブーツを履いてきてはいたけれど足を滑らせてしまった。前を歩く店長が素早く振り向いて支えてくれた。

「大丈夫?手、繋いでいこうか?」

「すみません。大丈夫です。駐車場、すぐだし。」

「・・・そっか。」

店長はそう言って前を向き直して歩き出した。そこからは滑ることもなく駐車場まで着いた。店長の車が見えて安心し一歩踏み出した時───私はまた滑ってしまい、今度は先程より前に大きくつんのめりそうになる───転んじゃう───痛みと冷たさを覚悟した瞬間、ぽすっ、という音がした。私の目の前にあったのは雪ではなくて店長の胸だった。

「・・・危ない。無理矢理でも手を繋ぐんだったよ。」

抱きしめる腕に力がこもる。

「すみませんでした。あの、もう大丈夫・・・。」

そう言って体を離そうとしたけれど、ぐっと抱きしめられて離れなかった。店長は無言だったけれどなんだか苦しそうに感じた。

「・・・店長・・・。」

離してもらおうと彼の体に手を添える。その時、人の気配がして顔を上げた。私の目に映ったのは、離れてもいつまでも私の心を揺さぶり続ける存在───暖人だった。
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