メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
物音がして、店長がテントから顔を出した。

「杏花ちゃん、眠れないの?」

「はい。」

彼はテントから出てくると私の隣の椅子に腰をおろした。

「このキャンプ、無理矢理連れてきちゃってごめんね。でも、気分が乗らなくても自然の中に行ったら少しは癒されるかなと思ったから。」

「緑が綺麗で川もあってすごくいいところだし、空気もご飯も美味しかったし、皆いい人ですごく楽しかったです。ブッシュクラフトも釣りも初めてだったけど面白かった。」

「良かった。キャンプはね、普段なら一瞬で出来ることをわざわざ手をかけて、時間を贅沢に使って楽しむのが醍醐味なんだよ。時計(ヽヽ)の存在なんて忘れて。」

時計、その言葉にドキリとする。店長は暖人が時計を作っている人だということは知らないはずだから偶然なのだけれど。

「杏花ちゃん、痩せちゃったもんね。頬も車が暑いから赤いのかと思ったらメイクだったんだね。外出てもずっと赤かったし。」

「今まで頬は自然に赤かったからチークしてなかったけど、体質変わったみたいて。チークしないと顔色悪く見えちゃうからしたけど、慣れてなかったから濃くなり過ぎちゃった。」

苦笑しながら言う。お酒も飲めなくなったし、食も細くなってしまっていた。

「・・・星見るならこっちから見るともっといいよ。」

店長が立ち上がったのでついていくとハンモックの前まで来た。『ここに寝そべって見るといいよ。』と言われ、言われた通りにしてみる。

「わ・・・。」

「ね、星空に抱かれてるみたいでいいでしょ。」

「うん。」

ふとその星空が店長の顔で遮られる。店長が上から覗き込んでいた。
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