メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
「これ、今日ホワイトデーだからバレンタインデーのお返しに。開けてみて。」

ラッピングの袋を開けて中の箱を開くと春らしいパステルカラーのマカロンが出てきた。ホワイトデーにマカロンを贈る───それは相手を『特別な人』と思っていることを意味する。特にその意味はなく単にマカロンをくれただけかもしれないけれど・・・。

店長は恋愛漫画やネット小説に出てくる男性みたいだ。甘いマスクで皆に好かれていて仕事が出来て、素敵なお店に連れて行ってくれて私を優しく包んでくれて甘い台詞を言ってくれて、時にはちょっと強引で。

こんな人に好きだと言ってもらえるなんてきっとすごく贅沢なことのはずなのに、どうして私の気持ちは動かないのか。どうして暖人といる時のようにドキドキしたり、心の奥から突き上げてくるような彼を求める気持ちが生じないのか。

どうして店長が惜しみなく注いでくれる気持ちに対して感じるのが戸惑いや申し訳なさや感謝のみで、爽ちゃんが言うような化学反応───うまく言えないけれど、暖人といる時に起こるような、相手の言葉や行動が自分の気持ちと結合して自分が変化していく感じ───が起きないのか。
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