メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
歩いている道でも電車でも一言も話さなかった。ただお互いのことを想いながら手を繋いでいるだけで、そのまま空に飛んでいけそうなくらい幸せで仕方がなかった。こんな気持ちがあるなんて今まで知らなかった。

部屋に入り、ローテーブルの前に隣り合わせで座ると杏花が口を開いた。

「私ね、暖人に対して感じる、どんどん熱くなっていく気持ちが怖かったの。制御できないその気持ちに自分が飲み込まれてなくなってしまうみたいな・・・。」

「俺も、こんなに何かに対して熱い気持ちを抱いたことがなかった。俺にとっては時計が一番大事なんだからって自分に言い聞かせてたけど、そんなんで収まるような気持ちじゃなかった。」

「・・・なんか、まだ信じられないよ。好きな人に好きって思ってもらえてるなんて。夢じゃないかな。」

杏花がそう言ってつねった化粧で色づけられた頬に口づけると、彼女が大きく反応した。

「夢じゃないって、わかるか?」

「うん・・・。」

頬を押さえたまま幸せそうに微笑んでくれた杏花をそっと包み込むように抱きしめる。

「俺は恋人がいても時計のことばかりになって相手に迷惑かけてきて、もう恋愛しないって決めたから、お前とこれ以上一緒にいるのが辛くて、距離をおいた。お前が俺のことそんな風に想ってくれてるなんて思わなくて・・・随分傷つけちゃったな。ごめん。痩せたのも俺のせいだろ。ちゃんと食べたり寝たりできてないのか?」

「暖人のせいじゃないよ。私だって変わっていく自分を受け入れられなくて、このまま離れたままでいいんだって思ってたから。本当は連絡したかった。一緒にいたかった。ごめんね。暖人のこと傷つけちゃってたんだね。」

彼女も俺の背中に手を回し抱きしめ返してくる。背中に感じる小さな手。こんなに小さい手が何よりも俺にパワーを与えてくれるんだ。
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