メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
「アート系で成功するなんて一握りだし、アートと関係ない職業に就くのなら仕事に直結するような勉強をしようと思って。それで経営を学んだ。色んな店で接客の経験を積んだし、心理学の勉強もしたりした。本当はここみたいな全国展開の大きなメーカーじゃなくて、もっと小さな、そこにしかないものが置いてあるような雑貨屋に就職したかった。でもね、本当にやりたかったことを諦めて他の道を選んでしまったのだから、その道で派手に結果を出さなくてはいけない、と思ったんだ。だから今まで恋愛もそこそこに仕事に熱中してきた。杏花ちゃんに会うまでは、ね。」

「えっと、その・・・。」

「ごめん。困らせるつもりはないんだ。」

「・・・。」

「今回の異動でやっと自信を持つことが出来た。あの時この道を選んだのは間違ってなかったんだって。でも、俺はここで満足しないでもっと上を目指す。今まで店舗で学んできたことを生かした商品作りや店作り、経営戦略・・・今はまだ通過点に辿り着いたに過ぎないんだ。」

そう話す店長の瞳は野心に燃えていてとても格好良かった。

「・・・私はまだ社会にも出てないし、就活だって高園さんみたいにしっかりした目標があってしたわけじゃないんです。何となく気になる会社を受けただけで。でも、そこで立派な社会人として成長して、仕事に、仕事をしている自分に誇りが持てるようになりたいです。それに、高園さんみたいに人を包み込めるような人になりたい。」

「杏花ちゃんも俺も新たなスタートラインに立ったところだね。お互い頑張ろう。」

店長が輝くような笑顔で手を差し出してくれた。キャンプの日には握れなかったその温かい手を握り返して、二人で微笑み合った。
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