メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
「店長、これ忘れてます。」

「ああ、そうだ、あぶないあぶない、肝心なものを渡しそびれるところだったよ。ありがとう。杏花ちゃん、これ。餞別に。」

「え?だってさっき・・・。」

勤務終了後、4人が『お疲れ様でした。』と拍手してくれ、花束とプレゼントをくれた。社会人になってから職場で使えそうなマグカップ、膝掛け、卓上加湿器、バッグインバッグなどの雑貨に、ハーブティーやたっぷりのお菓子など両手がいっぱいになるくらいだった。

「開けてみて。」

店長に言われて差し出された封筒を受け取ろうとすると及川さんが両手の荷物を持ってくれた。封筒から出てきたのは店のギフトカードだった。全店で使え有効期限はないものなのに、『三軒茶屋店に限る。今年の4月末まで有効。お菓子とハーブティー食べ飲み放題つき。』と書いた付箋が貼ってある。店長の字だ。

「俺がいるうちに遊びに来てよ。」

驚いて見上げる私に店長はそう言うと私に一歩近づいた。

「社会人になった杏花ちゃんに会いたいけど、いくら『兄』としてでも個人的に会う訳にもいかないしね。」

耳元で私にだけ聞こえる声でそう言うと暖人にチラッと目線を送る。私もその目線を追って暖人を見るといつもにも増して鋭い目付きで店長を睨み付けていた。
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