メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
*****

「暖人、ねぇ、怒ってるの?」

暖人は家に帰るまで無言でずっとムスッとしていた。朝バイトが終わったら一緒にスーパーに寄ってから帰ろうと言っていたのに、スルーして直帰してしまった。リビングに入った途端、彼は固く結んでいた口を開いた。

「・・・さっきの、何だよ。」

「え?」

「お前の耳元であいつ何言ったんだよ。」

「これのこと・・・店長4月末で本社に異動になるから、それまでにお店に来てって・・・その、個人的に会うわけにはいかないからって。」

もらったギフトカードを見せると暖人は付箋の文字を読んでから俯いた。

「・・・俺、負けねーから。」

「え?」

「本社にって多分栄転だろ。お前のこと好きだったくせに俺にそんな風に気遣って・・・見た目も社会的にも器のデカさまであいつの方が明らかに全部上じゃねぇか。敗北感しかねー。」

「そんなこと・・・。」

店長だって暖人に対してコンプレックスを感じていた。多分、どんなに完璧に見える人でも何かしらのコンプレックスを抱えているのではないだろうか。

「でも、お前を好きな気持ちはあいつに絶対に負けない自信がある・・・なんて、お前から離れようとしてたやつが言っても信じてもらえないかもしれねぇけど・・・外見は無理だけど、他はあいつよりいい男になるから。」

「・・・私、今の暖人が大好きだよ。」

気づいたら彼にぎゅっと抱きついていた。暖人はそんな私をその何倍もの力で抱きしめ返してくれる。

「・・・ごめん。俺、自分よりお前にふさわしいやつたくさんいるのわかってるけど、どうしてもお前を離すこと出来ないんだ。きっとこれからもずっと・・・。」

「私には暖人しかいない。ずっと、離さないで・・・。」

感極まって涙がぶわっと溢れてきた。暖人と出逢ってから私の涙腺はすっかり緩くなってしまった。でもそんな自分を私は前よりも好きになれていた。
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