メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
私が泣いていることに気がついた暖人は体を離して指で私の涙を丁寧にぬぐってくれた。涙が落ち着いて微笑み合うと心の中が温もりで満たされる。

すると突然、彼の手から魔法のように銀色の輪っかが現れて、それは私の手首に吸い付くようにぴったりと落ち着いた。

「腕時計・・・?」

「大学とバイトの卒業と就職の祝いだよ。就職しても使えるようにシンプルなのにしたから。」

植物モチーフになっているシルバーのベルトに白い文字盤、針は杏の花みたいな淡いピンク色だ。数字の色はダークグレーで1~12まで全て手書きのような優しい雰囲気の文字で書かれている。暖人の文字だろうか。シンプルなのに可愛くて温かい。それに・・・。

「なんか、すごくしっくり来る・・・。」

「お前の手首に最適になるように、フェイスもバンドの太さも調整したんだ。普通のレディースものだと少し大きいだろ・・・それは杏花の為だけの時計だから・・・あとそのバンド部分はユーカリをイメージしてる。花言葉は・・・。」

「「永遠の幸せ。」」

二人の声がハモった。彼がこの時計に込めてくれた意味にまた涙が出そうになってくる。

「ありがとう。なんか私、もらってばっかりだよね・・・。」

「いいんだよ。」

「よくないよ。私も何か作って・・・。」

「いいって。」

「や、でもこのままじゃ悪い・・・。」

そこで彼の唇が私の唇の動きを封じた。

「いい。俺は杏花をもらったから、もう何も要らない。」

暖人の唇はそんな言葉を吐き出して周りの空気を甘くした後に、私の唇を溶かしにかかった。そこだけに留まらず頬や耳、それから首を降りていき、私の着ているニットコートの上の方のボタンを外し、Uネックのニットを押し下げてそこに触れていく。温かくて柔らかい感触。そのまま動けなくなった私のコートのボタンは全て外され、ニットの下から暖人の冷たい手が入ってきて肌に直接触れた。
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