メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
杏花に食欲が戻ってきたのと同じように俺にも戻ってきたものがあった。作品のアイディアがどんどん浮かんでくるようになったのだ。

たった今も彼女が揚げまんじゅうを全種類食べたいと言ったことがきっかけで思いついたことがあった。鳩時計のようなぴったりの時間になると仕掛けが動くものの応用で、時計の数字それぞれの時間について違う仕掛けがあったらどうか。12時は文字盤が回転する、1時は数字が光る、2時は音楽が鳴って、3時には小さなイミテーションスイーツが出てくる・・・など。

杏花といると当たり前に見えていたこの世界の色々なものが特別な、より面白いものに見えてくる。今までとは違う着眼点を持てるような気がするのだ。

それに・・・なぜか今までには考えたことがなかった子供用の時計のアイディアも出てくるようになった。時計を読めるようになるために楽しく練習出来る時計ってどんなのだろう、とか、腕時計に防犯ベルやGPSがついているものは既にあるが、もっと他に役立つ機能はないだろうか、とか、大人と同じような洒落たデザインのものを作ってみたらどうか、とか。子供は苦手なはずなのに。

誰かの側で時間を刻む時計のことを考えていると今までよりもずっとわくわくするのだった。杏花といると俺はそのままの自分でいられるだけではなく、自分がなりたい自分に近づいていける。俺も彼女にとってそんな存在になれたらいいなと思う。
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