メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
「はぁ~・・・なんかなぁなぁな感じになっちゃったな・・・もっとちゃんと言いたかったんだけど。」

暖人は座り込み、珍しくセットした髪をぐしゃぐしゃと掻いた。

「いいじゃない。なんか楽しかったし、嬉しかったし、幸せだったよ。」

「・・・お前がいいならいいか。」

暖人はそう言うと私の左手を乱暴に引っ張った。

「え?何?」

「何?じゃない。プロポーズしたんだから、こうなるだろ。」

薬指に冷たい感触がする。彼の手が離れて目の前にその指を持ってくると指輪がはめられていた。今左手首につけている、去年付き合い始めた時に暖人がくれた腕時計───バンドはシルバーのユーカリモチーフで針は淡いピンク色のもの───がそのまま小さくなったようなデザインで、よく見ると時計はちゃんと動いている。

「これってエンゲージリ・・・。」

「それ、俺以外の男が一定距離以上近づくとビームが出て攻撃するようになってるから。」

暖人は照れたように私の言葉を遮って、もう一度足湯に足を浸けた。

「え!?本当!?」

「んなわけないだろ。」

私も隣に並んで足を浸けると彼が手をぎゅっと握ってきた。ザラザラして冷たい手。たくさんの素敵な時計を作れる手、私に優しく触れてくれる手。

「杏花、愛してる。」

こちらを向いて顔を赤らめながら言ってくれたその言葉は私の、私達の未来を明るく暖かく照らしてくれる。

「暖人、愛してるよ。」

私のこの言葉も彼の、私達の未来の光になるだろうか。

私達はどちらからともなく唇を重ねた。まだ外は寒いけれど唇からどんどん体温が上昇して、気温まで上がったのではないかと錯覚してしまう。桜が次々と開花してあっという間に散って、色とりどりのバラが咲き、アジサイが彩る梅雨が過ぎて、ひまわりが元気な顔を見せてくれる夏が来てしまうのではないかと心配になるくらいに。
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