メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
「『はひふへほ』って響きがふんわりとしてて優しい感じがするから、『はるひと』って、は行が二文字も入ってて聞き心地もいいし、口に出す時も気持ち良くていいね。たった4文字なのに詩とか歌みたい。」

「!?・・・。」

───どうしてこいつはこういう、人がくすぐったくなるようなことばかり言うんだろう。新手のSなのだろうか?いや、別に不快ではないけど。でもどう反応したらいいのか・・・。

「どうして暖人っていう名前になったの?」

「『暖かい人になるように。』ってそのまま。」

「そうなんだ。素敵な想いが込められてるんだね。」

ぶっきらぼうに答えると、にこにこしながら返されて焦る。

「でも『あたたかい人』の反対語は『冷たい人』だろ?『冷たい』の反対だと温度の温の『(あたた)かい』で『温人(はるひと)』になると思うんだよな。」

彼女が俺の名前を褒めてくれているのが照れくさくて憎まれ口ばかり叩いて、つくづく俺ってひねくれてるなと思う。子供はどっちだよ。素直に『ありがとう。』って言えばいいのに。

「どっちにしても、『あたたかいひと』名前の通りになったね。作品から伝わってくるよ。」

「は?そんなことねえよ。俺、結構ひどいやつだから。帰るなら今のうちだよ。食われないうちに。」

さっき、不覚にも本当に食ってしまいそうだった。

「帰らないよ。本当にひどいやつは自分のこと『ひどいやつだから。』なんて言わないよ。」

「・・・お前、そんなに純粋じゃ、社会に出てやってけないよ。世の中悪いやつばかりだからな。ずるいことしたり人を騙したり・・・皆自分のことしか考えてないんだよ。」

「悪い人もいるけど、いい人の方が多いでしょう?」

ひと欠片の曇りもない瞳。でもきっと社会に出て現実を見たらこの瞳も曇る、ていうか曇らせないとやっていけない。汚ないものばかり見えるから・・・まあ、俺には関係ないけど。

───あ。

俺は自分がいつのまにか杏花の瞳を真っ直ぐに見つめることが出来るようになっていることに気がついた。あの女性(ひと)の瞳と同じように。

「あー、わかった、わかった。わかったから早く飲もう。」

小さな波紋が広がった自分の気持ちをごまかすように彼女の小さな頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
< 29 / 290 >

この作品をシェア

pagetop