メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
杏花は酒好きと豪語するだけあって、相当な酒豪だった。

飲むペースが衰えることがない上に、顔色も目の感じもしゃべり方も様子が全く変わらない。ビール、焼酎、ワイン、日本酒、しまいにはテキーラやウォッカまで、まるで縁側でお茶を飲むかのようなほっこりした表情でなんとも幸せそうに飲んでいる。俺が人生で会った中でも一番の酒飲みモンスターだ。

彼女に負けるわけにはいかない、と俺も生まれて初めてこんなに酒を飲んだ。でも、そろそろ限界だ。

「・・・親も、酒、強いのか?」

ろれつの回らなくなった口で聞いてみる。聞いたところで明日にはこの記憶は失っていることだろう。そして確実に前代未聞のひどい二日酔いが待っている。

「二人とも弱いの。お母さんなんて飲むとじんましん出ちゃったり、アルコール消毒でかぶれちゃうし。ハタチになって初めてお父さんとお酒飲んだ時もお父さんあっという間にダウンしちゃった。」

「・・・そうか。」

───ああ、もうダメだ。一緒に飲んでるやつより早く潰れるのも、人前で潰れるのも初めてだ。

けれど、悔しいという気持ちはない。こういうのも悪くない、というか、むしろとても心地が良かった。

「でもね、何故か私と飲むと皆いつもよりたくさん飲んでも二日酔いにならないの。だから『歩くウコン』って言われて・・・暖人さん?」

彼女のその言葉が届く前に俺は意識を手放した。まるで白い鳩を雲ひとつない青空に思いきり放ったように清々(すがすが)しい気分だった。
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