メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
「何もしないからここで寝ろ。うち、布団一組しかないんだよ。こんなファンタジックなマンションに住んでるの知られたくなくて家に人入れないから。」

暖人さんが目をつぶったまま言う。声は気怠げだ。

「家に人入れないのに、私を入れてくれてありがとう。」

「!?・・・ま、まぁ、お前はまだ半人前だから別にいいっていうか・・・。」

急に焦ったように言われる。よくわからない理由だったけれど、嬉しかった。

「そっか。私半人前でよかった。あ、あのね私帰ろうとしたんだけど・・・。」

「わかってる。鍵な、いつもどこ置いたかわからなくなって出掛ける時困ってたから、鍵しまう為の時計作ってそこに入れてるんだ。」

「それ面白いね。」

彼との会話は楽しい。何気ない言葉の一つ一つがたんぽぽの綿毛のようにふわふわと心に舞い降りてお花が咲いて、言葉を交わす度にお花畑が広がっていくような不思議な感覚だ。

それにしても、今私お父さん以外の男の人とこんなに近くで寝ているんだ・・・ドキドキするけれど嫌ではない。むしろ遠足の前の夜みたいにワクワクしている。

「ねえ、暖人(はるひと)さん。」

「呼び捨てでいい。」

「じゃあ、暖人。」

「何?」

暖人はまだ目をつぶったままだけれど、彼の方に体を向けて言う。

「今度、あの展示場であるハンドメイドイベント、出店するの?」

「ああ。一泊して2日間出るように申し込んだ。会場首都圏じゃないのに昔からやってる人気のイベントだし、今年も出るよ。」

「あの、それなんだけど、私も一緒に出てもいい?共同出店。私、出たことなくてずっと出てみたかったんだ。さっき調べたら申し込み後でも参加者の追加できるみたい。」

私のその言葉に彼は目を開き横目でこちらを見た。

「別に共同出店じゃなくても、それぞれ申し込めばいいだろ。まだ募集してるし。お前時計作るわけじゃないんだし。」

「作ってるものが違うからいいの。いいこと思いついたんだ。お願い。」

「・・・またそういう目しやがって。」

そう言われてもじっと見つめたままでいると、暖人は少し考えてから口を開いた。
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