メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
「・・・わかった。いいよ。」

「やった!ありがとう。嬉しい。なんだか自分の世界が大きく広がる気がする。」

声も心も駄菓子屋さんのくじにある小さなゴムボールみたいに弾む。

「それはよかったな。じゃ、良い子は早く寝ろ。」

「イベントのこと考えたら興奮しちゃって眠れないかも・・・。」

あの作品を出そう、新たにこういう作品も作りたい、お店の飾りつけはこうしたい、こういう服を着てお店に立ちたい・・・どんどんアイディアが湧いてくる。それらを今すぐ書き留めたいし色々調べたりしたい。

「寝ない悪い子は襲うからな。」

計画に夢中になっていると耳元でささやかれてゾクッとした。

「ね、寝る。」

ぎゅっと目をつぶった次の瞬間ハッとして彼に声をかけた。

「私がお布団に寝るのは申し訳ないよ。」

見ると彼は目を閉じて寝息を立てていた。

気持ちが(たかぶ)っていた。イベントが楽しみだからか、それとも彼といるからか。

自分が苺になり生クリームに包まれてふわふわのパンケーキの上に横たわっているかのような甘くて幸せな気分だ。隣に寝ている暖人はオレンジかキウイフルーツかパイナップルか。

───まつ毛、長いなぁ。きっと爪楊枝乗るよね。もしかしたらマッチ棒もいけるかも?うわあ、乗せてみたくなってきちゃった。

彼は私のこと、半人前───子供───って思ってる。だからこんな風に近くで寝たりするんだろう。私は彼のことどう思ってる?隣で寝たりしてどうして嫌じゃないんだろう。他の人でもそう?私ってそういう人なのかな?それとも、暖人だから?

彼の耳にかかる長めの髪にゆっくりと触れる。サラサラで気持ちがいい。触れているうちに耳に手が触れた。

───温かい。もっと触っちゃおうかな。

もう一度耳に手を伸ばした瞬間、彼がパッと目を開けてこちらを見た。

「・・・なんだ、この手は。寝ないと襲うって言ったよな?」

圧のある低い声で言って、耳を触ろうとした私の手をぎゅっと掴む。
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