メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
───うーん、眠れない・・・。

この部屋で寝ているので、ここに置いてある時計は出来るだけ秒針が動く音がしないようになっているものばかりだ。飾ってあるだけで動かしていない時計も多い。でもいくつも置いてあると結構音がするんだな。いつもは気にならないのに。自分が作った時計に焦燥感を煽られるなんて初めてのことだ。

ん?そう言えば俺、あいつに張り合って無理して飲んで寝落ちしたんだよな。なのに何で今こんなにスッキリ目が冴えているんだろう。吐き気も頭痛も何もないし。

───あの書類でも読もうかな・・・。

俺は書類がある作業部屋に行くために起き上がった。

俺の人生を大きく変えるであろう書類。受け取ったものの手を伸ばすのをためらっていて封筒に入ったまま本棚の隅にしまってあった。このまま取り出すことはないのでないかと思っていた。でも俺の時計を見る杏花の真剣な瞳や感想に、なんだか背中を押された気がした。

それに初めてイベントに出ることになってすごく楽しそうなあいつにも感化されていた。俺の初イベントの時もあんな感じだったな。全然売れなかったけれど。

新しいことに挑戦する時の心がピンと張った感じを久しぶりに味わっていた。俺に出来るのだろうか、と少し怖くて、でもまだ見ぬ新しい風景がとても楽しみで。

どうなるのかはわからない。もしかしたら後悔するかもしれない。でも一歩を踏み出してみてもいいんじゃないか、そんな気持ちが確かに生まれていた。それは紛れもなくあいつのお陰だった。
< 39 / 290 >

この作品をシェア

pagetop