メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
『ハコイリギフトで作品を販売する。』それはクリエイターにとっては夢のような話だった。この会社の店舗やオンラインショップに作品を置けば、多くの人に作品と自分を知られることになる。それがきっかけで無名から自分の店を持ったり、テレビや雑誌に出たりするクリエイターも多かった。

そして俺は知らなかったのだが、目の前にいるこの控えめな女性こそクリエイターのスカウトを担当している敏腕エージェントだったのだ。名刺をもらってからネットで調べてみるとすぐに彼女のインタビュー記事がヒットした。

そこには顔写真と共に、彼女が発掘したクリエイターの作品は必ず人気商品になる、という記者の文章があり、有名クリエイター達の名前と作品の写真が例として掲載されていた。

その記事には彼女の経歴が書かれていて、吉祥寺にある店舗1号店のアルバイトを経て本社にアルバイトとして入社した年が書かれていた。何歳の時に入社したのかはわからないが、どう計算しても見た目と年齢が合わない。若過ぎる。50代のはずなのに30代半ばくらいで時計が止まっているのではないか。

「多くの人に暖人さんの素晴らしい時計をどうしても知ってもらいたかったから・・・あなたの作品はたくさんの人を笑顔にする、そう自信を持って思えたんです。」

彩木さんの目に力がこもる。見た目も話し方も控えめなのに自分の仕事に絶対の自信を持っている彼女は格好良かった。

『物語を奏でる時計』杏花が俺の時計を見て言った言葉を最初に言ってくれたのはこの人で、俺は彼女の目なら真っ直ぐに見ることが出来たのだった。
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