メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
俺が断っても彼女は何度も打診をしに俺のところに足を運んでくれた。俺はホームページを持っていないしSNSもしていない。いつどのハンドメイドイベントに出店するという情報は一切発信していなかったから無駄足になったこともあっただろう。
作品を認めてもらったのはこの上なく光栄なことだった。しかし、こういう大きい会社と契約してしまったら、作品に駄目出しをされたり、自分が作りたくない作品を作らされるかもしれない・・・細々とでも自分が本当に作りたいものを作りたいと思っていたのに、一年以上に渡って通い続けてくれた彩木さんの熱意に負けてしまった。
この会社に初めて来た時───電車が止まってしまい、偶然出会った杏花に携帯を借りた日───作品については全面的に俺に任せる、という丁寧な説明を受け、俺がサインするだけになっている契約書をもらい、家でじっくり読んだ上でもし契約する気になったらいつでもいいから連絡がほしいと言われた。杏花が泊まった夜に契約書を読んで・・・今日に至る。
席につき、署名捺印した契約書を渡すと彩木さんは嬉しそうに微笑んだ。再び深々と頭を下げる。
「これからどうぞよろしくお願い致します。」
弾んだ声で言われ、なんだか焦る。こういうビジネス的な場面は久しぶりだ。
「こ、こちらこそ、どうぞよろしくお願い致します。」
これからどうなるかはわからないけれど、俺の人生が大きく動いた瞬間だった。
「ホッとしたところでお茶いかがですか?よろしかったら琥珀糖も。弊社の商品なのですが。」
そう言って彩木さんが手で指し示した、宝石みたいに透き通ったゼリーのような和菓子が乗った皿を何気なく見て何故か杏花を思い出した。あいつはマジパンとかいう、ケーキの上に乗っている砂糖で出来た人形みたいだと思っていたけれど、このお菓子にも似ているかもしれない。透明でキラキラしていて、食べるのがもったいないような、いつまでも眺めていたいような存在・・・いや、食べたい気持ちも少なからずある・・・って仕事中に何考えてんだ、俺は。
「ごめんなさい。甘いものお嫌いでしたか?」
「い、いえ、大好きです。いただきます。」
俺は琥珀糖に手を伸ばした。
作品を認めてもらったのはこの上なく光栄なことだった。しかし、こういう大きい会社と契約してしまったら、作品に駄目出しをされたり、自分が作りたくない作品を作らされるかもしれない・・・細々とでも自分が本当に作りたいものを作りたいと思っていたのに、一年以上に渡って通い続けてくれた彩木さんの熱意に負けてしまった。
この会社に初めて来た時───電車が止まってしまい、偶然出会った杏花に携帯を借りた日───作品については全面的に俺に任せる、という丁寧な説明を受け、俺がサインするだけになっている契約書をもらい、家でじっくり読んだ上でもし契約する気になったらいつでもいいから連絡がほしいと言われた。杏花が泊まった夜に契約書を読んで・・・今日に至る。
席につき、署名捺印した契約書を渡すと彩木さんは嬉しそうに微笑んだ。再び深々と頭を下げる。
「これからどうぞよろしくお願い致します。」
弾んだ声で言われ、なんだか焦る。こういうビジネス的な場面は久しぶりだ。
「こ、こちらこそ、どうぞよろしくお願い致します。」
これからどうなるかはわからないけれど、俺の人生が大きく動いた瞬間だった。
「ホッとしたところでお茶いかがですか?よろしかったら琥珀糖も。弊社の商品なのですが。」
そう言って彩木さんが手で指し示した、宝石みたいに透き通ったゼリーのような和菓子が乗った皿を何気なく見て何故か杏花を思い出した。あいつはマジパンとかいう、ケーキの上に乗っている砂糖で出来た人形みたいだと思っていたけれど、このお菓子にも似ているかもしれない。透明でキラキラしていて、食べるのがもったいないような、いつまでも眺めていたいような存在・・・いや、食べたい気持ちも少なからずある・・・って仕事中に何考えてんだ、俺は。
「ごめんなさい。甘いものお嫌いでしたか?」
「い、いえ、大好きです。いただきます。」
俺は琥珀糖に手を伸ばした。