メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
背中に触れた途端、暖人の体がピクッと小さく震えて彼は再び口を開いた。

「俺、自分は今まで自分のことだけ考えて黙々と作りたいもん作ってるだけだと思ってた。でもそうじゃなくて俺は・・・誰かの笑顔や泣き顔や怒り顔の隣に寄り添えるような時計が、その人と一緒に時間を刻んでいける時計が作りたかったんだ。色々な人がいるから、色々な人に合うような作品を作ってたんだ。自分は人が苦手かと思ってたけど、本当は誰よりも人が好きなのかもしれない。」

「・・・ほらね。」

彼と密着して発した自分の声はいつもと違って聞こえた。

「やっばり暖人は名前の通り暖かい人なんだよ。暖房みたいに皆を暖めてくれるの。」

「・・・部屋のエアコンに俺のこの尖った(つら)がついてるって想像するとホラーだけど。」

「でもそうだったら私は嬉しいけどね。」

「あはは。趣味悪過ぎるだろ。」

先に彼が吹き出し私もつられて笑う。きなこを食べた時のようにふんわりと優しい味が口の中に広がっていくようだ。

抱きしめる手が緩んで体が少し離れ、上を向くと目が合う。彼の笑顔に心が捕らえられたようで体まで動けなくなる。笑うのを忘れて見つめていると彼も見つめ返してきた。

「俺・・・お前といると・・・。」

暖人はそう言いかけて口をつぐんだ。
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