メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
彼は最初自分が話しかけられたとは思わなかったようだったけれど、目の前に差し出された携帯を見るとその視線を私に移してきた。でも遠慮がちにちらり、としか見てこない。
「え・・・いいのか?」
鋭い目付きとは裏腹に優しい声だなと思った。
「どうぞ。急いでいるみたいだから。」
そう言って彼の手に携帯を触れさせる。細身なのに指は節くれだってがっしりとしていた。イヤフォンジャックにつけているお気に入りの可愛いチャーム───輪切りのオランジェット───がその無骨な手に乗って、なんだか対照的だなと思った。
彼は一瞬ためらったようだったけれど、すぐに私の携帯を手にした。
「悪い。」
彼はそう言ってすばやく携帯を操作する。指が止まって少し待つと、安堵の表情を浮かべた。
「webメールで連絡とれた。助かったよ。」
彼はホッとした表情で携帯を私に返してきた。彼が視線を落としていたので目は合わなかったけれど、その柔らかな笑顔に少し胸が疼いた気がした。
「よかった。」
私もホッと胸を撫で下ろして携帯をバッグにしまう。
「オランジェットの文字盤・・・いいかもな。針はゴールドで・・・。」
「え?」
彼がぼそぼそとつぶやく声に顔を上げると彼は慌てて目を逸らし、その瞬間アナウンスが流れた。
「安全確認がとれましたのでまもなく運転再開致します。」
それから数駅の間無言だったけれど、彼がこちらをちらちら気にしているのを感じていた。ターミナル駅に着くと彼は立ち上がり言った。
「本当に助かった。これ。」
彼は床に視線を落としたままそう素早く言うと私に小さな固い紙───名刺だ───を渡して足早に電車を降りていった。窓からその姿を追うけれど、降りた場所のすぐ近くに階段があり、そこを降りて行ってしまったのですぐに彼の姿は見えなくなった。
「え・・・いいのか?」
鋭い目付きとは裏腹に優しい声だなと思った。
「どうぞ。急いでいるみたいだから。」
そう言って彼の手に携帯を触れさせる。細身なのに指は節くれだってがっしりとしていた。イヤフォンジャックにつけているお気に入りの可愛いチャーム───輪切りのオランジェット───がその無骨な手に乗って、なんだか対照的だなと思った。
彼は一瞬ためらったようだったけれど、すぐに私の携帯を手にした。
「悪い。」
彼はそう言ってすばやく携帯を操作する。指が止まって少し待つと、安堵の表情を浮かべた。
「webメールで連絡とれた。助かったよ。」
彼はホッとした表情で携帯を私に返してきた。彼が視線を落としていたので目は合わなかったけれど、その柔らかな笑顔に少し胸が疼いた気がした。
「よかった。」
私もホッと胸を撫で下ろして携帯をバッグにしまう。
「オランジェットの文字盤・・・いいかもな。針はゴールドで・・・。」
「え?」
彼がぼそぼそとつぶやく声に顔を上げると彼は慌てて目を逸らし、その瞬間アナウンスが流れた。
「安全確認がとれましたのでまもなく運転再開致します。」
それから数駅の間無言だったけれど、彼がこちらをちらちら気にしているのを感じていた。ターミナル駅に着くと彼は立ち上がり言った。
「本当に助かった。これ。」
彼は床に視線を落としたままそう素早く言うと私に小さな固い紙───名刺だ───を渡して足早に電車を降りていった。窓からその姿を追うけれど、降りた場所のすぐ近くに階段があり、そこを降りて行ってしまったのですぐに彼の姿は見えなくなった。