メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
「え、何を?」

私がその短い言葉を言い終わる前に、暖人は素早く私の手からフルーツ牛乳を奪い取った。

「コーヒー牛乳とフルーツ牛乳、どっち飲むか迷ったんだよ。これは俺が頂く。」

「半分どうぞ。私もコーヒー牛乳とどっちにするか迷ったから半分ちょうだい。」

「だめ。両方俺が飲む。」

暖人はむきになったように言ってフルーツ牛乳の詮を開けた。

「寝る前にそんなに飲んだら夜中にトイレ行きたくなっちゃうよ?」

「ガキのくせに人を子供扱いすんな。これは俺がもらう。」

そう言って彼はフルーツ牛乳を私から遠ざけようとした。その瞬間牛乳がこぼれて私の浴衣の胸元にかかった。冷たさを感じると共に優しい甘さの香りが立ちのぼって鼻に届く。

彼は目を丸くして驚いてから情けないような顔になって『ごめん。』と謝ってきた。

「ううん。あはは、中まで濡れちゃった。」

浴衣の胸元を掴んで浮かせ中を覗き込んでいると暖人が何故か『アホ!』と言って私から目を逸らした。どうしたんだろう、と思いながらバスタオルで軽く拭く。

「浴衣、フロントで新しいの借りてこよう。実はこのピンクと暖人と同じ白いのと迷ってて、やっぱり白がよかったかもって思ってたの。」

「・・・ほんと、悪かったな。」

俯いてそう言う彼をよく見ると耳まで赤くなっていた。内風呂は結構熱かったしサウナもあったから、のぼせてしまったのだろうか。それなら牛乳を二本飲みたくなるくらい喉が乾くかもしれない。

何となくだけれど、海から帰ってから彼の様子が今までと違う気がする。ぎこちないというか、何かを持て余しているというか。
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