メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
電車が発車し名刺を見てみると、カラフルで時計のイラストが書かれている。名刺というよりご飯屋さんのレジのところに置いてあるお店の情報が書かれたカードのようだ。文字は手書きフォントのような字体で横書きでも縦書きでもなく斜めに書かれていたので名刺を斜めにして読む。

『時計職人 暖人(Haruhito)』

その後に電話番号とメールアドレスが書かれていた。

───『文字盤』『針』って言ってたのは、時計のことだったんだ。

先程まで彼が触れていた携帯を取り出して『時計職人 暖人(はるひと)』と検索してみる。すると、検索結果の一番上にハンドメイド作品を販売するサイトが出てきた。『時計職人』という肩書きも同じだし間違いないだろう。

そこをタップして表示された作品の写真に目を奪われた。

───これ、時計なの・・・?

そこに載っていた掛け時計、置時計、腕時計は私が今まで見てきた『時計』の概念を(くつがえ)すものだった。

時計のはずなのにどこに時間が書かれているのかわからないオブジェのようなもの、すごく大きいものや逆にすごく小さいもの、かと思えば実用品と一体になった便利そうなものもある。素材も木材や金属、プラスチック、ガラスなど様々だ。布や紙製のものまである。

自己紹介の文に『普段は公園のハンドメイドマーケットに出店しています。』とあってその下にいくつかの公園名があった。

───行ってみようかな・・・。

なぜかそんな風に思った。ふと顔を上げると窓の外には見慣れない風景が流れていた。大学の駅をとっくに通り過ぎていたようだ。


電車が止まったこの日、私達の時計が動き出した。
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