フラれ女子と秘密の王子さまの恋愛契約
「……手紙……か」
ブラウスの胸ポケットに入れた手紙を、服の上からそっと触れる。
レイからの手紙……私への言葉。
ずいぶん厚さがあるから、便箋何枚ぶんもあるんだろう。
(信じて……いいの?レイ……急な帰国も……王様になることも)
グレース王国の国王陛下になるなら、異国の一般人である私にはますます遠い存在になる。ヨーロッパの小国でも、れっきとした国家元首だ。
彼が、何を思って決断したのか……すべてここに書いてあるの?
そんな風に考えながら歩いていると、後ろの植えこみの茂みがガサッと動く。
驚いて振り向くと、「にゃあ」と猫が鳴きながら出てきた。
「あら、かわいいねこちゃん」
猫好きのお母さんがしゃがんで猫を撫でる。私も、と便乗しようとした時、ゾクッと背中が震えた。
(なに……今の)
なにか……妙な視線を感じたような?
「さくら、どうしたの?」
お母さんが怪訝そうに見上げるから、心配させちゃいけない、と明るく笑った。
「あ、別に。ふわふわでかわいいよね。きっと血統書つきだ」
「そうね。うちでも飼ってみようかしら」
何とか誤魔化せたかな、と気にしながらマンションに帰った。