フラれ女子と秘密の王子さまの恋愛契約
ドン、と壁に身体が押し付けられる。
「痛っ……」
しばらく動けないくらいの痛みで、視界が白く滲んだ。
「……なあ、さくら」
和彦に呼ばれただけで、ゾクリ、と背中が寒くなる。
かつて、愛したと思っていたのに。呼ばれただけで幸せだったはずなのに。
今は、ただ穢らわしいと感じてしまった。
「おまえ、俺が好きなんだろ?ずっと未練がましい目で俺を見てたもんな」
そう言う和彦はどことなく窶れ、目がギョロギョロしてた。きちんとしていた身なりも乱れ、髪はスタイリングがメチャクチャ。荒んだ雰囲気が怖くなり、逃げようともがいても拘束が強くなるだけだった。
「結婚してやるよ」
そう言って、ニタリと笑った。
「嬉しいだろ?おまえみたいな地味子が俺みたいなエリートに選ばれたんだ。おまえ、俺の言うことなんでも喜んできいたもんな」
確かに、それが愛情と勘違いしてた時もあった。
でも、今は……。
「……しない」
「は?」
「……あなたとは、結婚しない!」
そう叫んだ私の言葉が信じられないのか、和彦が目を見開く。隙を突いて彼の手に噛みつくと拘束が緩み、ようやくそこから抜け出せた。