フラれ女子と秘密の王子さまの恋愛契約
「ーーミルコ女王!」
思わず口にしてしまった通りに、それはミルコ女王からの手紙だった。
たぶん、日本で書かれたであろう日本語での手紙にはこう書いてあった。
『レイを愛する者へ、この手紙を遺します。
わたくしの本名は、ミルコ・フォン・ファザーン。レイの母であり、グレース王国の第19代女王の地位にあった者。
この手紙を読んでいるということは、レイがグレース王国の王子ということをすでに知っているということでしょう。
つまり、レイが王子という身分であることを知るが、 彼の身分など関係ないと想いを寄せてくれる、信頼に足る者とレイが判断したということ。
ならば、わたくしはあなたを信じます』
「……女王様……」
思わぬ嬉しい評価に涙がじんわりと滲むけど、読めなくなるからとすぐにごしごしと袖で拭った。
『わたくしは、5歳の時に女王の地位に就きました。けれど、わたくしはただの傀儡に過ぎず、実際の政治は母后と祖父大臣が行っていたのです。
わたくしはあくまで、弟のゲオルグが成長するまでの中継ぎ……。
住む場所も王宮などでなく、体が弱く療養を名目に辺境の離宮だった。王の証である印章も奪われ、お飾り程度に侍女を宛がわれて大人しくしろという扱い。
なにか口に出せば、数日は食事抜きなど当たりまえだったし、誰も実権のないわたくしに見向きなどしなかった。次期王と持て囃され、何もかも恵まれたゲオルグとはずいぶん違っていました』