フラれ女子と秘密の王子さまの恋愛契約





ーー晩秋。

「お母ちゃん!これ、捕れたよ!」
「わお、すごいじゃん!信治(しんじ)、ほれさくらにもプレゼントしたげな」
「さくらおばちゃん!あげる!」

目の前に大きな赤トンボが差し出されて、さすがに顔がひきつった。

「あ、ありがとう……でも、おばちゃんはよして欲しいかな」
「なんで?母ちゃんと同い年でしょ。だから、おばちゃんじゃん!」

わお、と子どもの無邪気さにダメージを受ける。

さすがに小学3年にもなると、平気で毒を吐いてくるわ……。
幼稚園の時はあんなに可愛かったのにな~としくしく泣いていると、香澄はアハハと軽やかに笑った。

「やれやれ、わが息子ながら語彙が豊富になってきたわね~」

11月……まもなく12月の今、ベリーヒルズの屋上庭園もさすがに風が冷たくて、日暮れ時は体が冷えてくる。

「香澄はまだ仕事が残っているんでしょ? 信治くんと一緒にマンションに帰ってご飯の支度しておくね」

私が立ち上がると、香澄は拝むように「さすがさくら様々!よろしくお頼み申します~」と頭を下げたから、苦笑いしておいた。
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