きみは微糖の毒を吐く
何も考えずに、下を向いたまま歩いてたまたま入った本屋。
その中をなんとなく、ふらふらと歩いていた時のこと。
『……あ、この本懐かしい』
偶然通りかかった棚の前で、そんな声が聞こえた。
顔は見なかったけれど、同い年くらいの男の子がある本を手に取っていて。
その横で綺麗な女の人が、その本を覗き込んでいた。
『あんたも本とか読むのね』
『これだけね。……なんかこれ読むと、ここにいてもいいんだって言われてるような気がして』
『へえ、『雨空のしたで』?』
『そう』
ずっと何も考えずに歩いていたはずなのに、偶然聞こえてきたあの会話だけは鮮明に覚えている。
『雨空のしたで』
───『これ読むと、ここにいてもいいんだって言われてるような気がして』
この本は児童向けの本で、高校生が読むようなものではないかもしれない。
だけど、これは間違いなく私の本だった。