きみは微糖の毒を吐く



「梨乃ちゃん……」



にこにこしながら手を振る彼女。


ドクンドクンと心臓が鳴って、目を合わせることができない。



「ちょうどよかった、彼氏もいるね」



何がちょうどよかったのか、知りたくない。怖い。



黙っている私と絢斗くんを置いて、梨乃ちゃんは楽しそうに話し始める。





「乙葉の彼氏ってモデルの柳絢斗なんだね、びっくりしちゃった。相変わらず男落とすのが得意みたいだね、羨ましいなぁ」




にこにこしながら、優しい口調で。
だけど少しも優しくなくて、棘がある。


そのちくちくした棘が胸に巻きついて、痛いよ。



「彼氏さん何も知らないみたいだから私が教えてあげる。乙葉は前の学校で私の好きな人を平気で奪って、みんなから嫌われてたんだよねー?」


「っ……」




「その子本当に男好きでその大人しい感じも男ウケ狙ってるだけなので、騙されない方がいいですよ」




それじゃあ、と梨乃ちゃんはすっきりしたように背を向けて去って行ってしまった。


残された私と絢斗くんの間には沈黙が流れる。


……ああもう、だめだ。


絢斗くんに全部ばれた。私のこと全然知らない絢斗くんが、唯一知ってるのがあのことだなんて、もう嫌われちゃったかもしれない。


ただでさえあの時のこと、誰にも知られたくなかったのに。





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