きみは微糖の毒を吐く







『……あ、この本懐かしい』



あの日、偶然通りかかった本屋で聞こえた会話を急に思い出した。


顔は見なかったけれど、同い年くらいの男の子がある本を手に取っていて。

その横で綺麗な女の人が、その本を覗き込んでいた。




『あんたも本とか読むのね』

『これだけね。……なんかこれ読むと、ここにいてもいいんだって言われてるような気がして』

『へえ、『雨空のしたで』?』

『そう』



そんな会話をして、棚を通り過ぎて行った2人。



『あ、ほらあったわよ。雑誌』

『うわ……本当に売ってんだ』

『もっと喜びなさいよ。表紙なんてそう簡単に出来るものじゃないわよ』

『はは、そーだね』




そんな会話を、鮮明に思い出す。

雑誌の表紙を見に来ていた、同い年くらいの男の子。

あの本が好きな、同い年くらいの男の子。


そんなのもう1人しかいないんじゃないだろうか。


もしかして、あれは、あの時の彼は───。





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