きみは微糖の毒を吐く
「絢斗くん、沖縄行ったことある?」
「ない」
絢斗くんがそう言ったのと、前から歩いてきた女の子2人組とすれ違ったのはほぼ同時。
私の隣を通った女の子たちが、ギリギリ私に聞こえるくらいの声で話していたのが、耳に入る。
「また絢斗くんに付きまとってるよ」
「転校生なのに調子乗ってるよね」
そんな会話に、ドクン、と心臓が跳ねる。
頭は熱くなるのに体がだんだん冷えていって、思わずうつむいた。
……芸能人ってことになるんだから当たり前だけれど、絢斗くんは人気者だ。ファンも多い。
付き合っていることは知らないにしても、今年の春に転校してきたばかりの私が絢斗くんに近づくのをよく思わない人もいるんだろう。
今は2学期が始まったばかり。
なかなか女の子と喋ったりしない絢斗くんと、たった半年弱で話せるようになっている私は目立っているのかもしれない。
……嫌だなぁ、こういうの。
身に覚えのある心の痛みを思い出して、少しだけ唇を噛んだ。嫌なこと思い出しちゃった。