ある雪の降る日私は運命の恋をする-short stories-
「先生、お願いします。」

看護師さんが、抱きかかえるような形で男の子を固定している。

そっか、先生って呼ばれる立場になってしまったんだな…

と少し緊張。

でも、こういう緊張はすぐに子どもに伝わってしまうから、気持ちを切り替えてゴム手袋を嵌めた。

「ごめんね、すぐに終わるから。」

大泣きはしていないものの、お母さんと離されたことでか、少し不機嫌な様子だ。

小さな左腕を取り、手の甲の血管を探る。

小さい子の場合、成人と比べ皮下脂肪が厚いため腕からではルートを確保するのが難しいからだ。

脳内で知識の確認もしつつ、怖がらせないように慎重に進めていく。

一番見やすくて大きな血管に決め、アルコール綿で消毒していく。

すると、ヒヤッとする感覚が伝わったのか男の子は注射を察してか、泣きはじめる。

「やだあ!!やんない!!やんない!!」

「ごめんね、すぐ終わらせるから少しだけ我慢だよー」

幸い、看護師さんが固定をしてくれているお陰で動いてしまう心配は無さそうだ。

留置針の針カバーを抜き、角度を定める。

「ごめんね、ちょっとチクッとするね」

針を刺すと、さらに大きくなる泣き声にこちらまで泣きたくなってしまう。

ごめんね、ごめんね と思いながら、逆血を確認し針を進めてから外筒を進め、内針を抜く。

とりあえずは、これで痛いことは無いはずだ。

内針が抜けないように抑えたまま、テープで固定していく。

小さい子の場合は、動いてしまうことが多いから針が抜けることがないように腕まで固定することが一般的だ。

「痛いこと終わったからね。よく頑張ったね。」

そう声をかけるも、男の子は泣いたまま。

…でも、そうだよね

俺も小さい時は、注射の度に泣いていた記憶がある。

固定を済ませ、点滴を開始する。

そのタイミングで、準備を終えた染谷先生が入ってきた。
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