ある雪の降る日私は運命の恋をする-short stories-
「……やめろ、大丈夫だ。もう、大丈夫だから戻る。」

「何言ってんの。手もこんなに熱いし、顔も真っ赤。歩きだってフラフラじゃん。」

「…違う。大丈夫だ。」

俺の手を払おうとするも、熱のせいで力が入っていないから全然払えてない。

それでも、なんの意地か何度も振り払おうとして失敗しついに廊下に置いたままになっている医療用カートに手が当たった。

ガシャンッ

と大きな音がして、カートが動いた。

「……はあ…いい加減にしろよ。体調悪いなら素直に休め。周りに迷惑かけてることがわからないのか?」

出来るだけ関係が悪くならないように、キツイ言い方はしないようにしていたが、これには俺もさすがにきれてしまう。

「……………すまない。…でも、俺は……」

「なんでそんなに意地張るんだよ。今行ってもしんどいだけだろ?手術なら、またいくらでも見学させてもらえばいいだろ。」

そう言うと、白井くんは露骨にシュンと肩を落とした。

「またの機会があるから。」

「…………」

「…だって……、今日のは貴重な症例だろ?………麻酔だって、調節が難しくて…、学びたいこと…まだ………」

「でも、倒れて先生方に迷惑かけたら元も子もないだろ?今日のことは残念だけど、諦めて休んどけ。知りたかったことメモとかくれたら、見ておいてやるから。」

そう言うと、やっと諦めたのか小さく頷いて俺にメモ帳を渡した。

「……これ、頼む…」

「おう。きちんと休んどけ。辛かったら、薬入れてもらえよ。」

こくん
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