ある雪の降る日私は運命の恋をする-short stories-
回想
夢を見た
母さんが怒鳴っている
ああ、また怒らせてしまったか
俺は昔から体が弱いから、いつも肝心な時に限って熱を出して寝込んでしまう。
母さんは厳格な人だから、俺が寝込む度に怒った。
"なんでアンタは毎回毎回発表の時に限って熱を出すの"
"仮病じゃないでしょうね"
"まったく、誰に似たんだか"
"お兄ちゃんは優秀なのに"
うちの家族はみんな出来のいい人だった。
父も母も医師で、父は数年前に開業し地元でみんなが通うクリニックで毎日町の人たちを診ている。
母は大学病院で働く傍ら、そこの大学で教鞭もとっている優秀な女医だった。
兄は小中高一貫して成績は常にトップ。
どれも地元の公立の学校だったのに、模試では毎回全国1桁位を取っていた。
学業以外にも、運動も出来て美術の才能もある、幼稚園の絵画コンクールのようなものから高校の美術展に至るまでいつも賞を取り、そのうえそれだけ出来てもいやな感じが少しもしなかった。
みんなに好かれて、地元の人で知らない人はいない。
普通の公立の高校から、日本一の大学医学部に現役で合格したのも後にも先にも兄だけだった。
優秀でみんなに好かれるかっこいい兄。
昔は、そんな兄が大好きだった。
みんなに誇れる自慢のお兄ちゃん。
……でもそれは、自尊心というものがつく前までの事だった。