ある雪の降る日私は運命の恋をする-short stories-
いやな夢を見た。

あれ、俺…何してたんだっけ……

体を起こそうとすると、わずかに腕が引っ張られる感覚がした。

見ると、点滴が腕に繋がっていた。

ああ、また俺熱出しちゃったんだ……

そうだよ、思い出した。

今日は、どうしても見学したい手術だったのに……

珍しい症例で、学ばなきゃいけないこと、沢山あったのに……

途中で帰されて、悔しくて、何も考えたくなかったから医局に戻ってそのまま仮眠室で寝たんだっけな…

…でも、点滴を打った覚えはない……いったい、誰が……?

そう思っていると、コンコンっとドアがノックされて扉が開いた。

「お、目覚めたか。」

そう言って入ってきたのは、染谷先生。

「あっ……」

こんなだらしない所見せられない、と急いで身なりを整えようとするも、染谷先生に止められる。

「いいよ、そのままで。まだ点滴も終わってないし、体もまだダルいだろ?俺は様子見に来ただけだから、そのままでいいよ。」

「……すいません。」

染谷先生の言う通り、まだ体はだいぶ重かったし火照ってる感じもしたから、俺は素直に従ってもう一度布団に入り直した。

「…いつから、体調悪かった?」

点滴を調整しながらそう言う染谷先生に、俺はどう答えるか少し迷った。

熱っぽかったのは今朝から、けど体調自体が優れなかったのはわりと前からだ。

……最近、上手く眠れない日が続いていたから、必然的に体もだるい日が続いていた。

「今朝からです。」

そう言うと、染谷先生は俺の顔をちらりと見てまた作業に戻る。

「嘘だな。熱以外に症状はほぼないし、その隈からしても、今回の熱は慢性的な疲労からだろ?熱は今朝からだったとしても、体調が悪かったのはもっと前からのはずだ。」

すごいな…先生にはお見通しか。

「……すいません…。」

「謝らなくていい。…ただ……、お前はいつまでそれを続けるつもり?」

突然の厳しい言葉に、俺はすぐには言葉を返せなかった。

「医者だって人間だ。体調くらい崩すことはある。…けど、お前の今回のは普段のお前の生活に起因してるだろ。今回はまだ見学だからよかった。でも、これが本番だったらどうしたの?お前の不摂生のせいで、患者さんを危険に晒すわけ?」

…………返す言葉もない。

ああ、また俺はやってしまったんだな……

また、自分で自分のチャンスを失ってしまっただけでなく……、先生からの信頼も失ってしまったのかもしれない……

……悔しいな…………なんで、俺は、また……

目頭が熱くなって涙が込み上げてくる。

いやだな、こんな年にもなって泣いてるなんて思われたくないのに……体調が悪いせいもあってか、余計涙が溢れそうになってくる。

零れそうになる涙を必死にこらえようと思うけど、それすら上手くいかなくて布団に涙が落ちる。

すると、頭にポンと大きな手が置かれた。

「……お前さ、無理しすぎ。なんで、そんなに一人で抱え込んでるの?周り、頼ればいいじゃん。俺も同期もいるじゃん。なんでそんなに相談してくれない?」

だって、俺は優秀であり続けなきゃいけないから…

人に弱みなんて見せられない……

「何をそんなに強がってるの?お前は見せてないつもりかもしれないけどさ、実はお前が本当はすごい弱いやつだってことみんな知ってるよ。」

「え?」

一気に顔が赤くなった。

俺、そんなダメなところ見せつけてたのか?

俺、そんなにダメな行動いっぱいしてたのか??

「…お前がなんでか知らないけど、すごい強がってるのはお見通し。元々、すごい弱いやつなんだろうなってこともお見通し。……けど、同時に、みんなお前が誰よりも努力してるのは知ってる。誰よりも早く来て、誰よりも遅くまで残って、毎日頑張って、そうやって強がってるんだろ?元は弱いのかもしれないけど、必死に隠すために誰よりも努力してる。それはみんな認めてるから。」

…………また、涙が出そうになった。

やめてくれよ、そういうの…

俺はできないから、やってるだけで……

人一倍頑張らなきゃ追いつけないからやってるだけで……

「俺が思うにさ、お前は何かを証明しようとしてるように見えるんだ。誰よりも努力して、もう既に周りより頭1つ分くらい抜け出てるのに、まだ足りないように見える。まだ満足してない。お前は何を証明したいの?どこまで、辿り着きたいの?」

……俺の目指すゴール?

…………わかんない…

わかんないよ。

知らないよそんなの。

俺は、頑張らなきゃ失望されるから、ひたすらがむしゃらに頑張ってきただけで、何もゴールなんてないんだ……

俺だって知りたいよ…俺のゴールってなんだ?

いつまで俺は頑張ればいいんだ?
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