ある雪の降る日私は運命の恋をする-short stories-
兄さんも黙って俺も喋る訳もなく、車の中には気まずい空気が流れる。

さっき走ったせいか、また熱が上がってきたみたいだ。

体が熱く、重い……

目を開けているのもしんどく、窓に頭を預けて目を瞑る。

窓の冷たさが心地良い。

「……大丈夫?」

心配そうな兄貴の声。

「…うん」

俺は小さくそれだけ返すとまた目を瞑る。

「……ごめんな、無理やり…」

「…いいよ、むしろ、こっちこそ…ごめん……」

またそこからしばらく沈黙の時間が流れるも、兄さんの質問によってその沈黙は破られる。

「…………いつから、そんな具合悪かった?」

またその質問か……

「……今朝から」

「……嘘つかなくていいよ。咎めたりしないから本当のこと教えて。」

……なんで、またお見通しなんだよ…

「…ずっと。………最近、うまく眠れなくて…」

「どのくらい前からか覚えてる?」

「…………もう、かれこれ1ヶ月…くらい……」

自分で言葉にすると、この1ヶ月の長い長い夜を思い出す。

まず寝付きが悪く全然寝付けない、やっと眠ってもすぐに目が覚めてしまう、その繰り返しで気付いたら朝……

ストレスのせいだろうなってことは薄々気が付いていた。

大学生の時も、試験が近付くといつもきまっと寝付きが悪かったから…

「……1ヶ月間、ずっと?」

「………たぶん、ほとんど…」

たまに疲労の果てに気絶するように眠りについてそのまま朝を迎えることはあった。

でも、ちゃんと寝れたのはそれくらいで……

「…眠れなくなった時期から考えるに、研修が始まってからだよね……。そんなに、ストレスだった?それとも、他に心当たりある?」

「…………わからない。…でも、たぶん……、研修始まってから仕事終わってから手技の練習とか勉強とかしなきゃいけないから…、いつも帰るの遅くなって……、帰ってから次の日の準備とか、色々してたら…いつも寝るの3時とかになっちゃって……それが続いて…いつの間にか、寝れなくなって…た…………」

言ってるうちにどんどん虚しくなっていく。

何一つ、間違ったことはしてなかったつもりなのに…

俺は人より時間がかかるから……人より努力しないといけないから……

なのに、いつも空回りして……

「…………ずっと、それ、一人で抱えてたの?」

……こくん

なんで、兄さんが辛そうな表情をするんだよ……

辛いのは、しんどいのは俺なはずなのに……
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