ある雪の降る日私は運命の恋をする-short stories-
「……北斗…1回、休もうか。」

「…え……?」

休む?

休むって何を?

「北斗…北斗はね、今すっごく疲れちゃってるの。心も体も。北斗は頑張り屋さんだからさ、また頑張りすぎちゃったんだね。……だから、少しお休みしよう?今の北斗にはゆっくり休む時間が必要だ。」

「…………休むって…?……研修を?…いやだよ、そんなの……そんなことしたら、また、俺……置いていかれるじゃん…また、俺………出来損ないに、なっちゃうじゃん……」

「…北斗……。北斗の真面目さはすごく大事なことで、素敵な所だと思うよ。……でもね、北斗は真面目すぎる所があるの。真面目すぎるから、自分にストイックになりすぎて、自分を追い込んじゃう。今だってそうだ。……ねえ、北斗、このままの状態で続けるつもり?仮に熱は引いたとしても、今のままじゃまたすぐ倒れる。まずは生活を改善しないと…」

「兄さんまで俺が悪いって言うの??俺はずっと頑張ってきただけなのに、結局、俺のせいなの??なんで…なんで、なんで、なんで……!!俺はっ…誰よりも頑張ってきたのに……誰よりも、努力してきたのに…………結局、いつも優秀なのは俺じゃない!!なんで?なんで?俺は頑張らなきゃ、戦えないのに…頑張ることすら許してくれないの??……じゃあ、俺はどうしたらいいの?俺は………」

ああ、頭が痛い……

いっつもそうだ……

頑張らなきゃ怒るくせに、頑張ったら頑張りすぎだと怒られる。

1位になるためにずっと努力をしてきたのに、1位になれるのは決まって一部の天才たちばかり。

頑張っても結局成果はでなくて、それでも必死に足掻いてもがいて苦しくても辛くても努力を重ねてきたのに……

凡人の俺に出来るのは唯一努力だけなのに……

俺は、努力すらも許されないのかよ……

「北斗」

いつもより低いトーンの兄さんの声に驚き見ると、兄さんはまた酷く悲しげな表情をしていた。

そして、いつの間にか車は止まっていて、兄さんは俺の手を取る。

「……まだ、母さんのこと、怖い?」

…………その質問が一番嫌だった。

もうやめてくれ……もう、その人の名前を出さないで……

それくらい、俺にとって母さんの存在はトラウマになっていた。

怖いなんてもんじゃない……あの人の存在は…、言葉は……俺に絡みつく呪いなんだ。

いつも、いつも気付いたら思考をあの人の言葉に支配されている。

あの人が俺に放ってきた呪いの言葉の数々は今も俺の心を鋭い棘で貫き続けている。

もう、母さんは居ないというのに……
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