ある雪の降る日私は運命の恋をする-short stories-



母さんは死んだ。

数年前に突然。

原因不明、突発的に起きた心臓発作によるものだった。

母さんが死んだ時、少しホッとして安心している自分がいた。

実の親が死んだというのに、そう思ってしまう自分が酷く憎らしく、気持ち悪かった。

葬式でも泣いていないのは俺だけだった。

少しも泣けなかった。

だって、ホッとしてるんだもん、これから母さんの言葉に怯えなくていいんだって。

でもそれは大きな間違いだった……



遺品整理をしていた時、たまたま俺は母さんの日記帳を見つけてしまった。

母さんはマメな人だったから、毎日寝る前に日記をつけていた。

もし、今の俺がその時の俺にアドバイスをするなら、その日記帳だけは読むなと言うだろう。

それくらい、俺にとってその日記帳は酷い代物だった。


○月✕日
また北斗が早退してきた。聞くと、学校で吐いたらしい。模試だったからだろうか。北斗は決まってテストの度に体調を崩す。ストレスだろうか。私が過度にプレッシャーを与えすぎるのが良くないのだろうか。でも、あの子は他の人よりも出来ないからプレッシャーでもかけないとやれないから仕方がない。でも、今思うと、プレッシャーをかけても結局出来た試しはほとんどない。普通なら、これくらいできるのに。北斗は普通よりも出来ない子に生まれてきてしまった。私たちの劣勢遺伝子ばかり継いだ子なんだ。もしかしたら、北斗には悪い事をしたかもしれない。こんなに出来なくて、苦しい思いをしないと普通になれないなら、産んであげなければよかったのかもしれない。隼人と比べられるのもいつも可哀想だ。北斗は産まれるべきではなかったのかもしれない。


俺は"産まれるべきではなかった"のか

俺は、こんなにも、母さんを喜ばせようと頑張ってきたのに……本当は、望まれていなかったんだ…

ずっと頑張ってきたこの時間は全て無駄で、成果を残せない俺には価値はなかったみたいだ……

じゃあ、俺は何のために頑張ってきたんだ?

何のために、毎日叱責されるのに耐えて努力してきたんだ?



その瞬間、何かが俺の中で壊れる音がした
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