明日、キミマチ坂の上で
【 最終話: 明日、キミマチ坂の上で 】
――そして、クリスマスの前日、またあの坂の上でお弁当を2つ持って彼を待っていた。
そこへ、いつものように、弟洋介と一緒に、憧れの彼が坂を走って登ってきた。
「洋介、遅いぞ。置いてくぞ」
「はぁはぁはぁ、待ってくれよ。孝太郎……」
「んっ? あれっ?」
「ど、どうしたんだ? 孝太郎、はぁはぁはぁ……」
「あっ、いや、何でもない。洋介、また先に下りてて」
「はいはい、先に行けばいいんでしょ? お前、すぐに追いつくもんなぁ~、はぁはぁはぁ、じゃあ、先に行ってるぞ」
「おう! すぐに行くよ」
彼は私のところへ駆け寄って来て、こう言った。
「ヨオッ! 久しぶりじゃんか、メガネっ子? ニキ……ビ……?」
「あ、こ、孝太郎くん……」
彼は振り向いた私の顔を見て、驚いている様子だった。
「ど、どうしたの? メガネは?」
「コ、コンタクトにしたの……」
「何か、いつもと違う感じがするけど、最近見ない間に、キレイになった……?」
「あっ、肌のこと? ニキビをきれいにしたの」
「そうか、それで雰囲気も違って見えたんだ」
私の憧れの彼は何故だか、いつになく顔が真っ赤になっていた。
「もう、メガネっ子ニキビって、言わせないんだから」
「あはは、もう言えないな。そのあだ名……」
「うふふっ……」
彼は突然、真剣な顔をして私にこう言ってくれた。
「美緒、俺、今の笑ってる美緒の顔が一番好きだな……」
「えっ?」
「実はさ、本当は俺、この大学に入ったの、美緒がいたからなんだ」
「えっ? 私がいたから?」
「そう。昔、よく洋介と3人で遊んでた頃、美緒のことが俺好きだった……」
「そ、そうだったの……」
「でも、中学に入ってから、美緒は全然俺と遊んでくれなくなったじゃん? だから、嫌われちゃったのかなって思ってた」
「ううん、そんなこと思ってないよ」
「でも、俺、初恋だった美緒のことが忘れられなくて、それで美緒のいるこの大学を選んで入ったんだ」
「そうだったんだ……」
「今の美緒は、昔の美緒のままのようで、とてもかわいいよ」
私は急に恥ずかしくなって、彼の顔を見ることが出来なくなった。
「その照れて、ほっぺたがピンク色になるのも、昔の美緒みたいで大好きだな」
「もう、おだてないで~」
「あははは」
私は恥ずかしかったけど、自分を変えるために、勇気を振り絞って、彼に本当のことを打ち明けた。
「実は……、私も、孝太郎くんのことがずっと好きだったの……」
「えっ? そうなの?」
「うん……。小さい頃からずっと……」
「小さい頃から? じゃあ、昔から両想いだったってことか……」
「でも、孝太郎くんには、いっぱいファンの女の子たちがいたから、声をかけられなかった……」
「あっ、それ、俺も同じ。俺もみんなの前で美緒に声かけられずにいた」
「えっ? そうだったの?」
「ああ、俺はずっと、初恋を追いかけてた。実は、一途なんだぜ、こう見えても」
「うふふふっ、そう見えない」
「このやろう~」
彼はそう言うと、私にやさしくゲンコツをしてきた。
私は、彼から勇気をもらって、もう一つ、秘密にしていたことを彼に打ち明けた。
「あのね、孝太郎くん」
「んっ? 何? ムシャムシャ……」
「後ね、私がこの坂の上でいつもお弁当を食べてた理由なんだけど……」
「んん……」
「実は、孝太郎くんがサッカーやっているのが、この坂の上から特等席で見られるからなんだ」
「そうだったの? だからいつもここで弁当食べてたんだ」
「うん……」
私は恥ずかしくて、顔から火が出そうなくらい、熱くなってたほっぺたを冷たくなった両手で覆った。
「美緒、お願いがあるんだけど……」
「なあに? 孝太郎くん」
「あのさ……、俺の……、俺の彼女になってくれない?」
「えっ? わ、私なんかでいいの……?」
「あぁ、俺、美緒が彼女になってくれたら最高かなぁって。また昔みたいに、美緒と洋介と3人で遊びたいしさ。いいかな?」
「う、うん、いいよ……」
「ありがとう、美緒」
「うん。私もありがとう。とってもうれしい……」
私は堪え切れない涙を彼に見せないように、さっと手で拭った。
それを見た彼は、徐にそんな風に恥ずかしそうにしていた私に、こう言ってくれたんだ。
「今でも大好きだよ。美緒」
すると彼は、私の体をやさしく抱き寄せて、冷たくなっていた私のおでこを、彼の温かいほっぺで温めてくれた。
彼の首元からは、この坂の上のやさしい風と、彼の爽やかな香りが漂っていた。
私はずっと大好きで憧れていた彼が、こうして隣にいてくれることが信じられなかった。
「ねぇ、美緒?」
「んっ? なあに、孝太郎くん」
「明日も、ここで美緒に会えるかな?」
「うん。会えるよ。ここで待ってる。この坂の上で」
「ありがとう。美緒」
そう言うと彼は、一段と私を強く抱きしめてくれた。
私も彼の背中にそっと両手を回して、彼の服をぎゅっと握りしめていた。
冬の空は冷たく、坂の上も風が冷たかったけど、孝太郎くんと一緒にこうしていると、不思議とそれも気持ちよく清々しいほどに感じられた。
「あっ! 雪だ」
「ほんとだ。そう言えば、今日はクリスマスイブだったな」
「そうね。私にもサンタさんがやって来てくれたみたい。うふふっ」
「俺にも、かわいい美緒サンタがやって来たみたいだしな。あははは……」
「うふふふっ……」
私たちは、お互いのおでこと鼻をくっつけて、見つめ合いながら笑った。
空から降ってきた雪も、私たちの周りだけ全部溶けちゃうほど、二人でいつまでも寄り添い温め合った。
この『キミマチ坂の上で』……。
「孝太郎のやつ、いつ下りて来るんだ~、ハックション!!」
END
――そして、クリスマスの前日、またあの坂の上でお弁当を2つ持って彼を待っていた。
そこへ、いつものように、弟洋介と一緒に、憧れの彼が坂を走って登ってきた。
「洋介、遅いぞ。置いてくぞ」
「はぁはぁはぁ、待ってくれよ。孝太郎……」
「んっ? あれっ?」
「ど、どうしたんだ? 孝太郎、はぁはぁはぁ……」
「あっ、いや、何でもない。洋介、また先に下りてて」
「はいはい、先に行けばいいんでしょ? お前、すぐに追いつくもんなぁ~、はぁはぁはぁ、じゃあ、先に行ってるぞ」
「おう! すぐに行くよ」
彼は私のところへ駆け寄って来て、こう言った。
「ヨオッ! 久しぶりじゃんか、メガネっ子? ニキ……ビ……?」
「あ、こ、孝太郎くん……」
彼は振り向いた私の顔を見て、驚いている様子だった。
「ど、どうしたの? メガネは?」
「コ、コンタクトにしたの……」
「何か、いつもと違う感じがするけど、最近見ない間に、キレイになった……?」
「あっ、肌のこと? ニキビをきれいにしたの」
「そうか、それで雰囲気も違って見えたんだ」
私の憧れの彼は何故だか、いつになく顔が真っ赤になっていた。
「もう、メガネっ子ニキビって、言わせないんだから」
「あはは、もう言えないな。そのあだ名……」
「うふふっ……」
彼は突然、真剣な顔をして私にこう言ってくれた。
「美緒、俺、今の笑ってる美緒の顔が一番好きだな……」
「えっ?」
「実はさ、本当は俺、この大学に入ったの、美緒がいたからなんだ」
「えっ? 私がいたから?」
「そう。昔、よく洋介と3人で遊んでた頃、美緒のことが俺好きだった……」
「そ、そうだったの……」
「でも、中学に入ってから、美緒は全然俺と遊んでくれなくなったじゃん? だから、嫌われちゃったのかなって思ってた」
「ううん、そんなこと思ってないよ」
「でも、俺、初恋だった美緒のことが忘れられなくて、それで美緒のいるこの大学を選んで入ったんだ」
「そうだったんだ……」
「今の美緒は、昔の美緒のままのようで、とてもかわいいよ」
私は急に恥ずかしくなって、彼の顔を見ることが出来なくなった。
「その照れて、ほっぺたがピンク色になるのも、昔の美緒みたいで大好きだな」
「もう、おだてないで~」
「あははは」
私は恥ずかしかったけど、自分を変えるために、勇気を振り絞って、彼に本当のことを打ち明けた。
「実は……、私も、孝太郎くんのことがずっと好きだったの……」
「えっ? そうなの?」
「うん……。小さい頃からずっと……」
「小さい頃から? じゃあ、昔から両想いだったってことか……」
「でも、孝太郎くんには、いっぱいファンの女の子たちがいたから、声をかけられなかった……」
「あっ、それ、俺も同じ。俺もみんなの前で美緒に声かけられずにいた」
「えっ? そうだったの?」
「ああ、俺はずっと、初恋を追いかけてた。実は、一途なんだぜ、こう見えても」
「うふふふっ、そう見えない」
「このやろう~」
彼はそう言うと、私にやさしくゲンコツをしてきた。
私は、彼から勇気をもらって、もう一つ、秘密にしていたことを彼に打ち明けた。
「あのね、孝太郎くん」
「んっ? 何? ムシャムシャ……」
「後ね、私がこの坂の上でいつもお弁当を食べてた理由なんだけど……」
「んん……」
「実は、孝太郎くんがサッカーやっているのが、この坂の上から特等席で見られるからなんだ」
「そうだったの? だからいつもここで弁当食べてたんだ」
「うん……」
私は恥ずかしくて、顔から火が出そうなくらい、熱くなってたほっぺたを冷たくなった両手で覆った。
「美緒、お願いがあるんだけど……」
「なあに? 孝太郎くん」
「あのさ……、俺の……、俺の彼女になってくれない?」
「えっ? わ、私なんかでいいの……?」
「あぁ、俺、美緒が彼女になってくれたら最高かなぁって。また昔みたいに、美緒と洋介と3人で遊びたいしさ。いいかな?」
「う、うん、いいよ……」
「ありがとう、美緒」
「うん。私もありがとう。とってもうれしい……」
私は堪え切れない涙を彼に見せないように、さっと手で拭った。
それを見た彼は、徐にそんな風に恥ずかしそうにしていた私に、こう言ってくれたんだ。
「今でも大好きだよ。美緒」
すると彼は、私の体をやさしく抱き寄せて、冷たくなっていた私のおでこを、彼の温かいほっぺで温めてくれた。
彼の首元からは、この坂の上のやさしい風と、彼の爽やかな香りが漂っていた。
私はずっと大好きで憧れていた彼が、こうして隣にいてくれることが信じられなかった。
「ねぇ、美緒?」
「んっ? なあに、孝太郎くん」
「明日も、ここで美緒に会えるかな?」
「うん。会えるよ。ここで待ってる。この坂の上で」
「ありがとう。美緒」
そう言うと彼は、一段と私を強く抱きしめてくれた。
私も彼の背中にそっと両手を回して、彼の服をぎゅっと握りしめていた。
冬の空は冷たく、坂の上も風が冷たかったけど、孝太郎くんと一緒にこうしていると、不思議とそれも気持ちよく清々しいほどに感じられた。
「あっ! 雪だ」
「ほんとだ。そう言えば、今日はクリスマスイブだったな」
「そうね。私にもサンタさんがやって来てくれたみたい。うふふっ」
「俺にも、かわいい美緒サンタがやって来たみたいだしな。あははは……」
「うふふふっ……」
私たちは、お互いのおでこと鼻をくっつけて、見つめ合いながら笑った。
空から降ってきた雪も、私たちの周りだけ全部溶けちゃうほど、二人でいつまでも寄り添い温め合った。
この『キミマチ坂の上で』……。
「孝太郎のやつ、いつ下りて来るんだ~、ハックション!!」
END