いいね★ネットワーク
【 第四話: いいね★ネットワーク 】

 私は結局、その電車に乗らなかった。

 学校には少し遅刻するかもしれないけど、次の電車に乗ろうと決めた。
 最後に、もう一度だけ、彼に会いたい気持ちがあったから……。

 すると、彼が大きな荷物を背負い、向かいの駅の階段を登ってきた。
 彼は、私がホームにいるのを見つけると、驚いている様子だった……。

『さっきの電車に乗らなかったの?』
『うん。乗り遅れちゃった……(^-^;』
『そう。学校大丈夫? 遅刻しない?』
『大丈夫。全速力で走って行くから(^o^)♪』

『ひょっとして、僕を待ってた?』
『ううん。今日起きるの遅くなって、乗り遅れちゃっただけ……(^-^;』
『君を見つけた時、一瞬、僕を待ってたのかなって思っちゃった。自意識過剰だね……(笑)』
『ところで、今日、田舎へ帰るって本当なんですか?』
『うん。実家の家業を継ぐため、これから長野へ帰るんだ』

 私は何故だか、急に寂しい気持ちになった。
 面と向かってしゃべったこともない男の人に、こんなにも切ない気持ちになるなんて思ってもいなかった。
 繋がっているのは、このスマホの中だけなのに……。

 私は、スマホから顔を上げ、彼の方を見てみた。
 すると、彼もそれに気付き、いつものようにやさしい笑顔で、ニコッと笑った。
 そこへ、彼の乗る特急電車が向かいのホームに到着した。

『ガタン、ガタン……、プシュ~……』
『ガラガラガラ……』
『ピリリリリリリ……』
『プシュ~……、ガラガラガラ……バタン』

 彼は、窓際の席に大きな荷物を置き、出発しようとしている電車の窓を開けて、私にこう叫んだ。

「執筆頑張って! 応援してるから! 僕の分も、君の夢を、きっと実現してね!! 君なら、きっと夢を叶えられるから!!」

『ガタン、ガタン、ガタン、ゴトン……、プワ~ン!……』

「分かった……。ありがとう……」

 私は、そう言いながら、電車の窓から手を振る彼に向かって、大きく手を振り返していた。
 気付くと、私の頬を一筋の涙が、(こぼ)れ落ちていた。

 それが、最初で最後の二人の会話だった……。

 しばらくすると、スマホの私のさっき書いたコメントに、『いいね』が付いた。
 私も、彼のコメントに『いいね』を押した。

 スマホの中の仮想世界と、今ここにある現実世界が、今日、初めて本当に繋がったような気がした。


 『いいね(・・・)』のネットワークで――。


END


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