バイバイ、ベリヒル 眠り姫を起こしに来た御曹司と駆け落ちしちゃいました
 先輩がスマホを取り出した。

「それよりさ、ニュース出てたね」

「え、イベントの騒動のことですか?」

 自分のことがニュースに出てるのかと焦ってしまった。

「違うわよ」と、先輩が笑いながら画面を見せてくれた。

『ベリヒル社長と旧華族御令嬢のお忍びツーショット』

 何これ?

 私でも名前を知っている三つ星フレンチ・レストランから出てきたところを写真週刊誌にバッチリ撮られているのだ。

 お互いに顔を見合わせて微笑み合っている。

 ずいぶん距離も近い。

 ほとんど頬が触れ合うほどの距離だ。

 お忍びって、全然忍んでないし。

「うちの社長、もてるよね。財閥の御曹司だから、相手もセレブとか有名女優ばっかりだもんね」

 急に熱が冷めていく。

 土曜日にラウンジで会ったときに、『人と会う約束がある』って言ってたのはこれだったのか。

 そうだよね。

『約束』なんて、社長にとってはたくさんあるうちの一つで、私なんかよりももっと大事な約束なんかいくらでもあるんだろう。

 見せたい物があるなんて言ってたけど、この写真のことだったりして。

 なんか馬鹿馬鹿しくて笑っちゃう。

 先輩はスマホの画面を指しながら愚痴をこぼしている。

「広報担当としてはさ、堅実な会社のイメージを守りたいからもう少し気を配ってほしいと思うんだけどね。ていうかさ、さっさと身を固めちゃえばいいのにね。なんなら、この人でいいじゃんね。いいとこの御令嬢なんだからお似合いだし」

 誰でもいいですよ。

 興味ありませんし、私。

 先輩の話はどんどんエスカレートしていく。

「ああ、でも、結婚しちゃうと、今度は他の人と写真撮られて不倫の噂なんか出ちゃったら、このご時世一発アウトか。どっちがいいんだろうね」

 どっちでもいいですよ。

 爆発しちゃえばいいんです。

 ベリヒルごと全部。

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