バイバイ、ベリヒル 眠り姫を起こしに来た御曹司と駆け落ちしちゃいました
「理由は……」

 言いかけたけど、やっぱり言い方が思いつかない。

「私個人の気持ちです。社長には関係ありません」

 長い沈黙が続く。

「そうか」と、課長がため息をつく。「分かった。退職の日程は有休の消化で調整できるだろうから、あとの手続きは人事から説明を受けてくれるかな」

「分かりました。ありがとうございます。勝手なことを言ってすみません。お世話になりました」

 最後に私は仮眠室に立ち寄った。

 いつも使っていたリラックスチェアに座る。

 窓の外には今日も五月末の澄んだ青空が広がっている。

 でも、もうこの景色ともお別れだ。

 こんなふうになるなんて、ついこの間までは考えたこともなかった。

 私はここが好きだった。

 ここが居場所だと思っていた。

 だけど、そうじゃなかったんだ。

 目を閉じるとまぶたの裏にいろいろなことが思い浮かんでくる。

 王子様なんていない。

 そんなこと、分かっていたはずなんだけどな。

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