バイバイ、ベリヒル 眠り姫を起こしに来た御曹司と駆け落ちしちゃいました
「ママ!」と、サクラちゃんが叫ぶ。

 美咲さんが唇に人差し指を当てながら顔を寄せる。

「全部見つかった?」

「うん」と、サクラちゃんが内緒話をするようにうなずく。

「じゃあ、帰ろうか」

「パパ、メロンかってきてくれるかな?」

「パパは、サクラのお願いはいつでもかなえてくれるでしょ」

「うん、ドルチェよりあまいの」

 美咲さんが伝票を持って立ち上がった。

 私が手を出そうとするのを押しとどめながら、そっとささやく。

「亜莉沙に頼まれたのよ」

「先輩に?」

 美咲さんは私の質問には答えずに、ただ微笑むだけだった。

「偶然のように見えることも、後から振り返れば必然なの。ちゃんとそれには意味がある。ただ、それがそのときには分からないだけなのよ」

 でも、私にはそうは思えない。

 意味のない出会いだってある。

 というよりも、それしかなかった。

 だからこそ、今、私はベリヒルではなくこんなところにいるんじゃないの?

「あなたが会社を辞めたことにも意味があるのよ」と、美咲さんがサクラちゃんを抱き寄せて頭をなでた。「私も会社を辞めてイタリアに行って人生が変わったから、あなたにもいいきっかけになるんじゃないかな」

「だといいんですけど」

「私にも分からないけどね」と、美咲さんが微笑む。「占い師じゃないし」

 ですよね。

「決めるのは自分だから。自分が決めれば、人生は動き出すの」と、美咲さんが手を振る。「大丈夫、後悔しないから」

「じゃあね、バイバイ」と、サクラちゃんもニッコリと手を振ってくれた。

 私は頭を下げて二人を見送った。

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