バイバイ、ベリヒル 眠り姫を起こしに来た御曹司と駆け落ちしちゃいました
「……持ち株すべてをドナリエロ・グループに売却し、代表取締役を辞任することといたしました。すでに今朝の取締役会において議決され、ドナリエロ・グループとの契約も締結済みであります」

「今回の突然の辞任の理由をお聞かせください」

「個人的な都合です」

「それはどういった都合でしょうか」

「ですから、会社の経営には関わらないという個人の意思です」

「経営を投げ出すということですよね。それは上場企業の経営者としてあまりにも無責任なのではありませんか」

「法律上の手続きに基づいた決定です」

 社長は表情を変えず、淡々と答えている。

 要領を得ない回答に記者たちはいらだっているようだった。

「なにか問題があったということでしょうか。業績関連、コンプライアンス的な問題、または、個人的スキャンダル」

「そういったことは一切ありません」

 と、ここでミケーレさんが割って入った。

「今回の買収については、友好的関係によるものでして、お互いの利害の一致に基づくものです」

 流ちょうな日本語に記者たちが沈黙する。

「少子高齢化の進む日本において、これまで飛躍的発展を遂げてきたハピネスブライトのノウハウをグローバルに展開していくという、次のステップを我々ドナリエロ・グループが担っていく。そういう経営的合理性に基づいた企業買収です。経営方針や、従業員の待遇は変えませんし、既存株主にも、顧客に対しても今後とも誠実に対応していくことをお約束します」

 記者が手をあげた。

「今回の売却の金額を教えてください」

「取引所時価総額約五百億円での売却で合意しました」

 ゴヒャクオクエン!?

 ミケーレさんの回答にどよめきが起こる。

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