バイバイ、ベリヒル 眠り姫を起こしに来た御曹司と駆け落ちしちゃいました
「新羅さん、それだけのお金を、今後どうするおつもりでしょうか」

 ざわめきが収まるのを待ってから、社長が静かに語り出した。

「今回の売却で手にしたお金については、すでに分配先が決定しています」

 ブンパイ?

 記者たちのつぶやきが聞こえる。

「まず、iPS細胞による難病治療に関連した研究に百億円、大学生の海外留学を支援する奨学金に百億円、交通遺児、災害孤児への就学支援に百億円、さらに、不妊治療への支援金として百億円、それぞれを、各活動をおこなう財団へ寄付いたしました」

「残り百億円は個人の財産として保有するということですね」

「それについては、私からご説明いたします」

 大里選手が話を引き継いだ。

 一斉にたかれるフラッシュがまぶしい。

「本日、新羅徹也氏から大里健介サッカー財団に百億円の寄付をいただき、新たにサッカー以外のスポーツを幅広く支援する財団を設立いたしました。マイナー競技にも光を当て、若者たちのチャレンジを応援していきたいと考えております」

 スポーツ紙の記者が挙手した。

「引退なさった大里さんの、今後のご予定、特にご結婚の予定についてお聞かせください」

「引退と結婚という言葉に論理的関連があるとは思えませんし、今後の活動は今申し上げたとおり財団の運営です。今日の記者会見はそのためのものですが、聞いてなかったんですか? それとも私の話に興味がなかったんでしょうか? 他にプロフェッショナルな質問は?」

 記者たちが黙り込む。

 通信が止まったみたいに画面が動かない。

 しばらくして、経済紙の記者が一人挙手して質問した。

「マイナースポーツとしては、具体的に名前の挙がっている競技はありますか」

「新羅氏から寄付のお話をいただいたばかりですので、具体的な構想についてはこれから詰めていくところですが、さきほど会見前に電話で話したオランダの友人から、フィーエルヤッペン普及に向けた日本国内大会協賛の打診は受けています」

 フィーエルヤッペン?

 記者たちの頭にはてなマークが浮かんでいるのが見えそうだ。

 フィーエルヤッペンが検索ワード第1位に急浮上していた。

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