バイバイ、ベリヒル 眠り姫を起こしに来た御曹司と駆け落ちしちゃいました
 また社長への質問に切り替わる。

「新羅さん、五百億円をすべて寄付するということでしょうか」

「そうです」

「かなり思い切ったご決断だと思いますが、後悔とかはありませんか」

「ありません」

「日本を代表する財閥の御曹司として個人的財産をお持ちだからでしょうか」

「私個人の財産は会社の株式だけでしたから、今回の売却および寄付で全財産を失うこととなります」

 困惑の声が上がり、またフラッシュで画面が真っ白になる。

「非常に驚きの決断だと思うのですが、今一度、その背景についてご説明いただけませんでしょうか」

「私には必要のないものだから。ただそれだけです」

「五百億円ものお金が必要ないというのは、理解しにくいのですが」

「それは個人の価値観の問題ですので、私からはこれ以上説明できることはありません」と、いったん言葉を切って、区切りながらはっきりと発音した。「私には、必要が、ない。それだけです」

「今後は、どうなさるのでしょうか」

「何も決まっていません」

「個人的質問で恐縮ですが、ご結婚のご予定などは?」

 社長は黙ったまま会場を一通り見回してから、口を開いた。

「無職で無一文になりましたので、わざわざそんな男を選ぶ女性はいないでしょう」

 会見の中継はここで終わった。

 五百億円で会社を売却して、全額寄付。

 ふうん。

 そっか。

 私には関係のないことだ。

 山中先輩はどうするのかな。

 経営者が変わるだけで、会社がなくなるわけじゃないから、働く人にとっては今まで通りなんだろうな。

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