恋の花を咲かせた3月の涙。
「お待たせしました。トマトのパスタのお客様」


「ありがとうございます」


「ペペロンチーノのお客様」


「ありがとうございます」


「ごゆっくり~」


トマトがはねないように気をつけながら食べ進める。


「ひぃちゃんはさ、転校したくなかった?」


「まあね」


転校という選択肢しかなかったから考えたことなかったけれど、正直転校はしたくなかった。


新しい家からでも頑張れば通える距離だったし、前の家で一人暮らしでもいいと思っていた。


バイトを掛け持ちすれば生活費は何とかなると思うし。


何より、引っ越すことによって思い出が消えてしまうと感じて寂しい。


「何で、そこまでよくしてくれるの?」


昨日からずっと疑問に思っていた。


ちぃちゃんは調子に乗っていると思われたくないから私に話かけられないと言っていた。


なのになんで和花ちゃんたちは仲良くしてくれるのだろう。


「和花がひぃちゃんに話かけたのは私も驚いたの。けれど別に理由は無いと思う。それはきっと、ちぃちゃんも同じ」


「さっちゃんも?」


「私は違うよ。」


違うと言われて心配になった。


何か企んでるのか、とか思ってしまう。


「理由を聞いてもいい?」


断られたらどうしよう。


もやもやがずっと消えないのは結構嫌だな。


「ひぃちゃんは私に似ている気がするから」


「似ている?」


「うん。静かに過ごしたいっていう気持ち、ひぃちゃんもそう思ってるんでしょ?」


なんて答えたたら正解なのかわからない。


静かに過ごしたいと、確かにそう思っていた。


高校3年で転校なんて珍しいい事だし、友達は作らなくてもいいと思っていた。


例えこれが本物じゃないとしても、一度味わってしまったらそこから抜け出せなくなってしまう。


仲良くなった時こそ、裏切られたときの傷は深くなる。


それを経験している私はまた同じことを繰り返そうとしている。


「所詮は友達だって他人なんだよ。だったらさ、友達付き合いで自分が疲れる事をわざわざやらなくてもいいんじゃないかな?」


「うん。けれどそうしたら変人に思われない?」


「そうだね。でも楽だよ。もしひぃちゃんが独りが恥ずかしいと思っているなら私が独りにさせない」


「なんでそこまで……」


「簡単だよ。私はひぃちゃんと仲良くなりたいからだよ」


「ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいよ」


ファミレスを出た後、私たちは駅に向かった。


奇跡的に最寄り駅が一緒だったことを知り、これから一緒に登校しようといる事になった。


別に嫌だとは思わなかった。


それはきっとさっちゃんだからだろう。



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