秋を憂い、青に惑う
秋を憂い、青に惑う
「もうそれほぼネギじゃん」
腹減った、ラーメン食い行こうぜって和泉が言うからわたしもその言葉に乗っかった。
全く知らない街の通りかかりにぽつんと立ってたがらんどうの店の中、新聞片手に暇そうに丸椅子に座ってたおっちゃんの持ってきたラーメンは、和泉がネギ増し増しで、というかほぼネギで溢れていた。
油臭い古びた店だと思ったけど、乗っかってるネギは他の込んだ本場京都の九条ネギっぽい、見た目だけは。
「いいだろ、ネギ好きなんだよ」
「あとで笑ったとき歯にネギ付いてても指摘してやんないから」
「は、しろよそこは」
「つかないように頑張って食えし」
「キスするときネギ付いてたら格好つかねーだろ」
動きを止めて顔を上げたら、割り箸を咥えながらぱき、って割る和泉と目があった。育ちのいい和泉もそんな割り方をするってこと、はじめて知った。
和泉に出逢ったとき、一目で出遭ってしまったと思った。
それは和泉も同じだったという。
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