秋を憂い、青に惑う
その頃、同じクラスの片桐五十鈴とよく目があった。
おれが教室の後ろの方でクラスメイト数人と喋っている時も、窓際の席の友人と二人で喋っているような、特別特記することのない生徒だ。おろした小麦色の髪に、背も、高くも低くもない。顔は、よくわからないがそこそこだと思う。事実彼女は男子生徒に告白されることが何度かあるというのを、他のクラスメイトから耳にすることがあった。
快活で、元気な雰囲気。でもおれに話しかけてくることはない。
代わりに、その眼はずっとおれを見透かしていた。
一点の曇りもない眼がたぶん、はじめからおれを見抜いていたのだ。
「変なの」
だから席替えをして隣の席になったその日、配布プリントを後ろに回す動作で目があった時に笑ったら、そんなことを言われたのだと思う。
「…え?」
「変なの」
「…えっと、僕の顔、何かついてるかな」
「そうじゃないよ」
そうじゃない、と軽く笑いながら言われて、意味がわからなかったから「これからよろしくね」と顔を傾けたら、笑いながら顔を左右に振られた。
不思議なことに、その反応を片桐自身も他の生徒には見られないように振る舞うのが得意で、彼女は一見うまくおれと溶け込んでいる体を装って、おれの一切から確実に一線を引いていた。
それなのに、必ずおれが見ていない時にこっちを見ていた。
母の独占欲とは違うその視線を受けておれもやがて次第に、彼女の視線を受け止めるようになる。